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オンボーディングは十社十色。企業タイプ別のポイントを解説
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前回までのコラムで、オンボーディングの目的や実施のポイントを見てきました。
ただし、すべての企業がポイントに沿ってオンボーディングの施策を行えば効果が得られるわけではありません。オンボーディングのあり方は”十社十色”です。
事業特性、組織風土、社員がもつスキルやマインドといった企業の特徴をふまえて、最適なオンボーディングを計画する必要があるのです。
企業の歴史と大きさによってオンボーディングの道のりは異なる

オンボーディングの進め方や大切なポイントは、企業によってさまざまであり、ひとつの答えがあるわけではありません。
今回は、企業を大きく「規模」と「歴史」の観点で以下の4タイプに分類し、各タイプの企業におけるオンボーディングのポイントを考えたいと思います。
①日本の大企業
②日本の中小企業
③メガベンチャー
④ベンチャー
「規模」と「歴史」で分類したのは、組織の規模によってオンボーディングにかけられる人的・金銭的リソースが異なること、そして歴史が長い企業ほど既存の組織風土が強く根付いていることが理由です。
それでは、それぞれのタイプの企業におけるオンボーディングの現状と、実施する際に考えたいことを見ていきましょう。
①日本の大企業

本コラムでいう大企業とは、日本国内で知名度が高く、従業員がおおよそ1,000人を超え、毎年新卒採用を行っているような企業と定義します。これは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」における大企業の定義(常勤者1,000名以上の企業)を参考にしました。
日本の大企業では、オンボーディングが必要不可欠である会社はまだ少ないのではないかと考えます。なぜなら、日本ではまだ新卒学生の大企業志向が強く(※1)、大企業は、優秀であり自社に愛着をもった人材を多く獲得できているからです。
社員にとっては、誰もが知る企業に入れたことや、給与水準や福利厚生に満足していることで、会社へのエンゲージメントを高く保ちながら働けるでしょう。企業としても、ブランド力で社員を惹きつけられているため、早期退職が深刻な問題になるとは考えにくいのです。
さらに、新入社員を受け入れる人事部門はリソースが潤沢で、「採用チーム」「育成チーム」「労務チーム」といったように、役割ごとの専任チームをおいている大企業も多くあります。それぞれの専任チームが、新入社員研修や、現場のメンター社員のアサインなどをしっかり行っているのです。
こうした盤石な体制が整っているため、喫緊でオンボーディング施策を始めなければならない、という危機感は生まれにくいものと考えられます。
逆に言うと、大企業は今の施策を変えにくい側面もあります。見直すとなると合意を取らなければならない関係者が多いからです。そのため、何年にもわたって、同じ内容の新入社員研修や受け入れ施策を行っている企業が多いと思われます。
とはいえ、近年は若手ビジネスパーソンを中心に、大企業においても転職者が増えています。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によると、従業員数1,000名以上の大企業でも、新卒入社して3年以内に離職する割合は約25%。およそ4人に1人が早期退職しているのです。
大企業においてエンゲージメント施策に着手する際は、自分の仕事が会社全体や社会にどう役立っているのか、組織で生み出している価値を伝え、理解してもらうことが必要だと考えます。事業の規模が大きいがゆえに、一人ひとりが担う役割は細分化されたタスクになりがちです。そのため、ビジネス経験が浅い社員ほど、事業の全体が見えにくく、仕事へのやりがいを見失ってしまいかねません。
また、大企業で新たな施策を行うときは、経営トップがエンゲージメント向上やオンボーディングにコミットメントすることは必須です。組織が大きいがゆえに、経営トップからその必要性を発信しないと、多様な関係者の協力を取り付けることは難しくなるでしょう。
そのため、オンボーディング施策を担当する大企業の人事担当者は、経営陣の協力を得ることを重視するとよいと考えます。
②日本の中小企業

日本の企業のうち99.7%を占める(※2)中小企業は、新入社員の受け入れに限らず、あらゆる仕事の場面で資金面・人材面でのリソースが足りません。また、大企業に比べると給与水準が低くブランド力もないので、大企業より従業員エンゲージメントは高まりにくいと考えられます。
こうした状況をふまえると、中小企業は積極的にオンボーディングをやるべき理由はあると思われます。
しかしながら、実際にオンボーディング施策を行うとなると、既存の組織風土と施策内容が整合していなかったり、実施するためのノウハウが足りなかったりする問題が起きがちです。中小企業では、人事部門がなく、人事・総務・経理などバックオフィスの役割を一手に引き受けるバックオフィス担当者が数人いるのみの体制で、「人事のプロ」がいない場合も多いのです。
また、オンボーディングを考える前提となる経営理念やビジョン、行動規範などが定義されていないこともあるでしょう。これらを後付けで作るとなると、オンボーディングと並行して、既存社員への理解・浸透策も必要になります。
オンボーディングに着手しようとしても、人手も知見も足りないことが多いのが、中小企業です。そのため、初めのうちは、知見のある企業にコンサルティングを依頼したり、経験者を採用したりして、ノウハウ不足を補う必要があるでしょう。
③メガベンチャー

メガベンチャーとは、ベンチャー企業が成長して事業や組織の規模が大きくなった企業です。最近では、メルカリやマネーフォワードがその一例として有名になっています。
こうしたメガベンチャーの中には、しっかりオンボーディング施策を行っている企業があります。日本でのオンボーディングの事例も、メガベンチャーによるものが多くあるのです。
メガベンチャーを含むベンチャー企業は、企業ブランドや安定性、福利厚生はやはり大手より劣る面があります。また、事業成長スピードが速いため、働きがいはあるもののハードワークになりがちです。
ベンチャー企業は、このような環境で社員がやりがいをもって働き続けられるよう、エンゲージメントを高める必要があります。企業理念をしっかり浸透させ、働きがいと心理的安全性を生み出すことで早期退職を防ぎ、無駄な採用コストを生じさせないようにするためです。
オンボーディングに力を入れてきた企業にメガベンチャーが多いのは、こうした理由があるのです。成長を目指しているベンチャー企業は、メガベンチャーのオンボーディング施策の事例から学べることが大いにあるでしょう。
④ベンチャー

革新的な事業を立ち上げ、設立して数年ほどのベンチャー企業では、オンボーディング施策を考え、実施している余裕がないのが実態だと考えます。限られた資金や人材で事業を成長させることに注力しているため、人材育成や組織づくりには手が回っていないでしょう。
こうした企業では新卒採用は行わず、中途採用のみを行っているケースがほとんどです。社員には入社直後から自律的に動いてもらい、自ら業務を理解してもらうことが期待されています。
しかしながら、ベンチャー企業は社員が30人を超えた時点で、組織の仕組みを作らないと経営がうまくいかなくなるといわれています。それまでは社長が全社員に指示を出す「文鎮型」の運営をしていた企業がぶつかる、「30人の壁」と呼ばれる現象です。
この壁にぶつかったときが、企業が組織づくりに着手するタイミングではないでしょうか。組織をいくつかのチームに分け、チームリーダーを置き、リーダーに権限を移譲していくのです。複数のメンバーで会社を運営していく体制になっていくので、メンバー間の認識を揃えるために、目指す組織像や人材像が必要になります。
また、ベンチャー企業の人材採用では、社長や創業メンバーによるリファラル採用(社員の知人を紹介する採用手法)が多く行われます。ところが、企業をさらに成長させるためにはリファラル採用だけでは足りなくなり、人材紹介サービスなどを利用するタイミングがいずれ訪れます。その際にも目指す組織像や人材像があることで、期待に沿った人材を採用しやすくなります。
新入社員のオンボーディングについては、組織像や人材像を定義し、組織体制を作った後に検討を始めるとよいと思われます。なぜなら、どういった人材になってもらうことを目指し、どのような組織体制のもとで行うのかが決まっていなければ、具体的なオンボーディング施策を考えられないためです。
そして、これからオンボーディング施策を考えるベンチャー企業は、自社の将来像であるメガベンチャーの施策例が参考になるでしょう。事業も組織も成長し続けている中で、どの段階でオンボーディング施策を始め、どのような内容で行っているのかといったことは、歴史の長い大企業とは異なる特徴があるはずです。
組織や人材の課題や、それらをふまえたオンボーディングのあるべき姿は、企業規模や歴史によって異なるものです。今回ご紹介した4タイプのうち、自社はどのタイプに近いのかをふまえて、オンボーディングのあり方を検討いただければ幸いです。
※1 株式会社学情「2024年卒 就職人気企業ランキング【速報】」
https://ferret-one.akamaized.net/files/637c8a504e577b19d0069884/2024ranking.pdf
※2 中小企業庁「2020年度 中小企業白書」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/index.html