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業績にも好影響。「エンゲージメントを高める」とは何か

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前回のコラムでは、会社が社員の働きがいを高めるためには「エンゲージメント」が欠かせないことをお伝えしました。

しかしながら、日本はエンゲージメントが注目されるようになってから日が浅く、社員のエンゲージメント向上策を行っている会社もまだ少ないのが現状です。今回は、エンゲージメントが必要になっている時代背景、そしてエンゲージメントを高めるとは何をすることなのかを考えます。

エンゲージメントが高い企業は業績が上がる


エンゲージメントとは、コンサルティング会社のウィリス・タワーズワトソン社の定義によると「企業が目指す姿や方向性を従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識」とされています(※1)。

エンゲージメント施策に力を入れている企業の多くは、外資系企業です。その代表格としては、スターバックスやディズニー、ザッポス(靴のネット通販会社)などが挙げられます。いずれもBtoCビジネスで現場スタッフを多く抱える会社です。現場の業務はルーチンワークも多く、必ずしも楽しいことばかりではありませんが、スタッフ達は生き生きと働いています。スタッフは「この会社で働いている」という誇りを持ち、自発的に良い仕事をしようと努力するのです。これは会社へのエンゲージメントが高いことの表れに他なりません。

これからの時代は、モノを売るだけでなくアフターサービスを含めた顧客体験が重要になっており、BtoB企業でも、米セールスフォース・ドッドコム(法人向け顧客管理ソリューション)や日本ではSansan(法人向け名刺管理サービス)など、顧客とより良い関係を築く活動をする「カスタマーサクセス」というチームを作る会社が見られるようになりました。これらの会社と業態が違う製造業でも、エンゲージメント向上は他人事ではありません。顧客が社員とどのようなコミュニケーションを体験するかで、顧客に選ばれる会社になるかが決まるのです。このようなビジネストレンドの変化からも、社員が仕事に意欲的に取り組める環境作りの重要性が理解できるでしょう。

エンゲージメントが高いと、社員の働きがいが上がってよい組織を作れるだけでなく、会社の業績に好影響を与えます。アメリカの調査会社ギャラップ社によると、エンゲージメントが高い会社は低い会社よりも収益性が23%もよいことがわかっています(※2)。エンゲージメントを高めることは、会社の業績向上策の一環だといえるのです。

日本でも、会社経営にとって見逃せない国の動きがあります。金融庁が各企業へ「人的資本(社員のスキルや資質)」の開示を求める動きが出ているのです。日本では2022年夏に開示指針が作られる見通しで、2023年には有価証券報告書への一部記載が義務付けられます(※3)。エンゲージメントは、開示が望ましい項目とされました(※4)。社員が能力を主体的に発揮できない会社は、株式市場での評価が得られず、株価にも影響が出る時代がすぐにやってくるでしょう。

日本企業はエンゲージメント初級者


21世紀に入り、日本企業は社員の働きやすさを大幅に改善してきましたが、「働きがい」の実現については道半ばです。会社と個人が信頼し合い、社員が仕事に対して前向きに取り組める環境を作るために、エンゲージメントの醸成は欠かせません。

ところが、ギャラップ社が2017年に行った従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことが分かりました。調査した139カ国中、132位と最下位クラスだったのです。同社のCEOであるジム・クリフトン氏は、日本は「不満をまき散らしている無気力な社員」の割合が24%と高いことも問題視しています(※5)。

歴史を振り返ると、日本人は年齢による上下関係が厳しく、所属する組織の指示に従って奉仕する精神が根強いため、エンゲージメントの考え方はそぐわないかもしれません。さらには雇用が保証され、自分の人生を守ってくれる会社への帰属意識(ロイヤリティ)に満ち溢れていたので、日本企業はこれまでエンゲージメントを意識してきませんでした。経済も成長していたため、問題にもならなかったのです。

最近ようやく、メガベンチャー(ベンチャー企業から大企業へと成長した会社)を中心に、エンゲージメントを高める取り組みをする会社が見られるようになりました。メガベンチャーは、会社の急成長を支えるため社員を積極的に採用しています。そのため、どうしても社歴が浅い社員の割合が多くなってしまうので、組織の一体感を守るための施策として必要なのでしょう。

その一方、歴史ある大企業の大半は、今のところ終身雇用制がなんとか守られており、社員のロイヤリティがまだ高い傾向にあるので、エンゲージメントを高める施策をすぐやらなくても、社員数の確保はできてきました。しかしながら労働力人口が減り続けているため、大企業も早晩エンゲージメントの必要性は高まると思われます。近い将来、大企業がメガベンチャーにエンゲージメント施策を学ぶことになるでしょう。

エンゲージメントを高めるとは何か

労働力人口が減り、優秀な人材の争奪戦が起きている現代において、エンゲージメントを高める施策は、社員が「この会社で働き続けたい」と思い、主体的に働いてもらうために有効だと考えます。では、エンゲージメントを高めるとはどのようなことなのでしょうか。

会社のミッション・ビジョンはありますか?


エンゲージメントを高めるには、まず会社と個人が向かいたい方向性が同じなのかの価値観がすり合っていることが必要です。その確認のために、会社の価値観となるミッションやビジョンが言語化されていなければなりません。ミッションとは自社の使命や存在意義、ビジョンとは将来目指す姿をいいます。日本では、経営破綻した企業が立て直しの際、ミッション・ビジョンの必要性を感じて制定することがあります。日本航空が自社の商品・サービスに携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方として策定した「JALフィロソフィ」が代表例です(※6)。
ミッション・ビジョンそのものに加え、策定された背景やプロセスもストーリーとして文章にしている会社もあります。短い言葉であるミッション・ビジョンだけでは人によって解釈が異なり、正しく理解してもらえない可能性があるからです。例えば、ビジネスチャットツールを提供するChatworkや、ウエディングプロデュースをしているCRAZYでは、ミッション・ビジョンに込めた経営者の想いも公開されています(※7)。

こうしてミッション・ビジョンを制定したら、人材採用でも価値観が合うかを基準に含めるとよいと考えます。いくら能力が高くとも、会社と価値観が合わない人は採用すべきではありません。向かいたい方向性が違っていては、同僚とよい関係を築いて仕事をすることが難しいからです。「能力が高い人」よりも「一緒に働きたい人」を重視して採用することが、エンゲージメントを高める第一歩になります。

共感・愛着・信頼


エンゲージメントを高める営みは、会社と社員の価値観が合うことを確認し、社員の心を掴み、信頼関係を築くことです。これは、マーケティングにおいてファンを大切にし、ファンと一緒に価値を上げていく「ファンベース」の考えと大いに通じると考えます。マーケティングにおいては、一過性の効果しかない単発施策ばかりではなく、顧客と長く付き合える関係を築くことが大切との考え方が広まっています。会社と社員の関係性も同じではないでしょうか。

コミュニケーション・ディレクターとして活躍する佐藤尚之氏の著書『ファンベース』によると、ファンベースのキーワードは、「共感・愛着・信頼」とされています。この3つを強くする施策を行うことで、コアファンが作られるのです。

これを会社と社員の関係構築に当てはめて考えると、

・会社が価値観を示すとともに社員の考えを積極的に聞き、良い意見を取り入れることで、社員は自分の考えが会社に理解してもらえていると感じ、「共感」が育つ
・社員が会社の方針や施策を決める場に参加したり日常的な接点を増やしたりすることで、社員は「ここは自分の居場所である」と感じ、会社への「愛着」が深まる
・これらの活動を通して、会社が社員と誠実に向き合い続け、成果を承認することで「信頼」が醸成され、長く活躍してもらえる

と捉えることができるでしょう。現代社会では会社と社員は対等な関係であり、相互理解が何より大切なのです。

このように、会社と個人とが価値観を共にし、対等な立場で意見を出し合う体験を積み重ねることで、社員1人ひとりが会社や仲間への思い入れを持ちながら意欲的に働いているのが「エンゲージメントが高まっている」状態なのです。

エンゲージメントを測る方法も登場


自社の社員が会社に対してエンゲージメントがどのくらいあるのかを計測する指標やサービスも出てきています。

エンゲージメントを測る指標には、「eNPS℠」(Employee Net Promoter Scoreの略)があります。これは、自社を友人にどのくらい勧めたいかを0〜10の11段階で社員に問うものです。推奨者(回答スコアが9以上)の割合から批判者(回答スコアが6以下)の割合を引いた数値を計算し、エンゲージメントの度合いを明らかにします。

エンゲージメント調査のサービスとしては、ギャロップ社による「Q12」や、日本ではアトラエ社が提供する「Webox」というものがあります。いずれも、社員が質問項目に回答し、その集計結果が分析され、組織のエンゲージメントを高めるアドバイスがレポートとして提示されるものです。

このような調査サービスが生まれている一方、その結果を活かしてエンゲージメントの改善策を行い、実際にエンゲージメントが高まった事例はほとんど見当たらず、各社とも模索中であると言えるでしょう。避けたいのは、意味のない組織診断です。目的のない調査はコストの無駄といえますし、調査に協力した社員は、測られたことがどう活かされるのか分からなければ会社への違和感や不信感が残ります。調査をする際には、目的、結果の活かし方、社員への開示方法を十分に検討してから行うとよいでしょう。

次回のコラムでは、エンゲージメントを高める具体的な施策と、その出発点となるオンボーディングについて考えていきたいと思います。


※1 出典:エンゲージメントと従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス)から考える人事制度構築
https://www.wtwco.com/ja-JP/Insights/2021/07/hcb-nl-july-uetake

※2 出典:Gallup, 2020, “The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes”
https://www.mandalidis.ch/coaching/2021/01/2020-employee-engagement-meta-analysis.pdf

※3 出典:2022年5月14日付 日本経済新聞
スキルや女性登用…「人的資本」情報開示へ政府指針 有報記載、23年度義務も
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60783710U2A510C2MM8000/

※4 出典:2022年6月18日付 日本経済新聞
人への投資開示に4基準 政府案、価値向上や独自性 経営者の意識改革促す
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA157770V10C22A6000000/

※5 出典:2017年5月26日付 日本経済新聞
「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/

※6 出典:JALフィロソフィ(日本航空の経営破綻から1年後に、同社の再生を担っていた稲盛和夫氏と現場のメンバーで検討し、社員の意識改革を目的に制定されました)
https://www.jal.com/ja/outline/conduct.html

※7 出典:Chatwork株式会社 ミッション
https://corp.chatwork.com/ja/mission/

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https://www.crazy.co.jp/about