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オンボーディングはなぜ必要? 何をすればいい? 実践ポイントも紹介
- HRオンボーディングベンチャー人事ウェルカムキットオンボーディングスタートアップ


前回のコラムでは、オンボーディングの概要を解説しました。今、なぜオンボーディングに注目が集まっているのでしょうか。取り組んだほうがいいと感じるものの、なぜやるのかピンときていない方も多いかもしれませんが、その背景には多くの日本企業が抱える深刻な課題もあるのです。
また、オンボーディングの施策として、実際にどのようなことを行えばいいのでしょうか。今回は、人事担当者や新入社員受け入れ担当の皆さんが気になる具体策も見ていきたいと思います。
オンボーディングはなぜ必要なのか

今、オンボーディングに関心が集まっている背景には、日本の労働人口が減り、企業が優秀な人材の採用と定着に苦労するようになったことがあると考えられます。人材の採用と定着がうまくいかなければ、採用コストが膨らむ一方になり、会社も成長しにくいからです。
採用の難しさに加えて、もうひとつの背景として、社員が自分で考え自律的に動いてもらう必要性が高くなったことも挙げられます。
世界の環境変化が激しくなり、社長の号令に従って社員が働いているだけでは、企業が生き残ることは難しくなりました。各社とも既存事業が伸び悩むことが増え、新規事業が必要になってきています。ところが、以前の記事でもご紹介したように、日本企業は「目上の人に従う」文化が根強くあります。何をするにも許可を取り、前例がないことはやらない傾向もあるのではないでしょうか。こうした文化は既存事業を守る点では一定のメリットがあるものの、新規事業を生み出すことには苦労しがちです。
パーソル総合研究所が2022年5月に企業の新規事業担当者へ行った調査によると、「成功している」との回答は30.6%に留まり、「成功に至っていない」との回答は36.4%と「成功している」の割合を上回りました(※1)。データからも、新規事業の立ち上げが難しいことが伺えます。
新規事業の立ち上げは、アイデアの種を自ら見つけ、前例のない問題にも対応し、多くの協力者を巻き込んでいく必要があります。社員が「この会社に自分は受け入れられている」「チャレンジすることを後押ししてくれる」という安心感をもち、失敗を過度に恐れず自律的に動こうと思うマインドになることは、これからの社会で企業が生き残っていくために欠かせないものだといえます。
オンボーディング施策でやるべきこととは

オンボーディングの施策とは、具体的に何をすることなのでしょうか。
最初に行いたいのが、オンボーディングで達成したいこととマイルストーンを決めることです。マラソンで途中通過タイムの目標を決めるように、「入社して7日後までにこの状態に、30日後までにこの状態になっていてほしい」という目標を決めます。
そして、目標に至るために必要だと思われることを、施策として行っていくのです。前回ご紹介した「順応」→「育成」→「定着」というオンボーディングのプロセスに沿って見ていきます。
「順応」によって、社員に安心感をもってもらう
入社初日から、新入社員を座席にひとりで座らせたままにしてはいけません。新入社員が最初に味わう気持ちが「戸惑い」「疎外感」といったマイナスのものになってしまうからです。
記念すべき初日は、歓迎していることが伝わるように同僚から言葉で伝えたり、歓迎ランチに行ったりしましょう。あるいは、Noftyのサービスでもあるウェルカムキットを用意して、初日に渡すのも効果的です。新入社員は、ランチの場やキットを用意してくれたことを嬉しく思うはずです。
この段階では、Noftyが考えるオンボーディングの3つの観点(制度・事業・情緒)のうち、「情緒」のオンボーディングの意味合いが強いので、儀式的な場が大切なのです。オンボーディングは船や飛行機に乗り込む「on-board」が語源です。新しい乗組員を歓迎しましょう。

そして、「制度」のオンボーディングとして、会社のルールや業務ツールなどを説明するオリエンテーションを行うのはもちろん、「事業」のオンボーディングの出発点となる経営理念やビジョンの説明も欠かせません。理念が明文化されていない場合は、まずは言葉にすることが必要です。いくら豪華なランチやウェルカムキットを用意しても、理念の土台となる会社の価値観がはっきりしていなければ、新入社員にとっては会社へ共感する点を見出しにくく、順応するまでに多くの時間がかかるでしょう。
「順応」フェーズのゴールは、社員に「自分はここにいていいのだ」「歓迎されているのだ」と感じてもらい、安心して仕事に取り組んでもらう状態をつくることです。多くの人は、入社直後のできごとをずっと覚えているのではないでしょうか。そのくらい、新入社員にとっては、その後の会社人生を左右する大切な期間なのです。
「育成」を通して、会社の理解を深めてもらう

会社の基本的なルールや一緒に働く同僚について理解してもらったら、いよいよ「事業」の具体的なオンボーディングとなる、業務が始まります。新入社員がいつでも質問できるような、メンターとなる先輩社員をアサインするといいでしょう。安心して仕事に取り組んでもらえます。
そして、仕事に取り組む中で、「情緒」のオンボーディングの一環として、会社の風土も理解してもらうようにします。前回のコラムでご紹介した、
・個人で能力を発揮する or チームワークを大切にする
・意見を積極的に出す or 上司の意見に従う
・スピーディーに仕事を進める or 確実にミスなく仕事を進める
といったことを、仕事を通して体感してもらうのです。メンターからも言葉にして伝えるとよいと思います。そのためには、メンター自身が会社の風土を自覚しておくことも必要です。
そして、実際に仕事をしてみると、新入社員がちょっとした疑問や違和感を抱くこともあるでしょう。そのような小さな違和感は早めに察知して、解決できることは解決できるよう、メンターがこまめに対話する機会をつくるとよいと思います。最近ではヤフーの事例で有名な「1on1」(上司と部下が1対1で定期的に対話をする場)を行う会社も増えたようです。
「定着」に向けて、自分の成長を感じてもらう
入社して数か月経つと、新入社員が1人で担当業務をこなせるようになる、小さくともアウトプットが出せるようになる、など何らかの成長が見られると思います。
「定着」段階のオンボーディングで大切なのは、その社員の成長を認めてあげて、会社にどう役立ってくれているのかをしっかり伝えることです。新入社員は目の前の仕事で精一杯なことが多く、自分の仕事と会社とのつながりは感じにくいのではないでしょうか。
だからこそ、ここでも「情緒」のオンボーディングが効果を発揮します。会社全体が見えている先輩が言葉にしてあげることで、新入社員にとっては自分が会社に貢献できていることがわかり、モチベーションにもつながるのです。まずは、こまめに話をすることから始めましょう。マイナビが2018年〜2021年度入社のビジネスパーソンを対象に行った「新入社員のエンゲージメントと職場環境に関する調査」でも、先輩社員とのコミュニケーション頻度が、仕事へのやりがいや会社の好感度に大きく関係していることがわかっています(※2)。
なお、ここでご紹介したオンボーディングの施策は、行う順番や時期も大切です。また、「情緒」のオンボーディングは忘れられがちなのですが、実は入社直後から仕事に慣れるまでのすべての期間において重要です。新しい社員が入社する前に、しっかりオンボーディング施策の計画を立てておくとよいでしょう。
オンボーディングで会社も社員も幸せに

オンボーディングのさまざまな施策のうち、特に重要なポイントは「価値観の合致」です。これは、オンボーディングの3つの観点(制度・事業・情緒)の土台となるものと言ってもいいでしょう。
会社と社員の双方がオンボーディングによるメリットを得るために、一連のオンボーディングの取り組みで必ず確認したいのは、会社と個人の価値観が合っているかどうかです。価値観が違うと、いくら能力が高い社員でも十分に成果を出せないからです。
社員が入社した時には、価値観が合っているか見極めるためにも、「順応」フェーズで企業理念やビジョンを理解してもらう取り組みは欠かせません。理念やビジョンの背景や歴史、社員はビジョンをどう体現しているのかといったことを理解してもらい、共感する点を対話する取り組みが効果的でしょう。
会社と自分の価値観が合っていると感じた社員は、会社から受け入れられている安心感が芽生え、働き方のイメージがわき、最初から自信をもって働けるでしょう。自分の考えを周囲に伝えることもためらわなくなります。
逆に、この時点で会社の理念に共感する部分がなかった社員は、違和感を覚えます。場合によっては早期に退職してしまうこともあるかもしれませんが、これは社員と会社の双方にとって結果的に幸せなことだと考えます。このまま社員が違和感をもちながら働き続けても、価値観が合わない同僚とスムーズなコミュニケーションをすることも、成果を出すことも難しいと思われるからです。
人事部門が行う人事プロセスには、採用・配置・育成・評価・報酬といったものがありますが、これらに加えて、組織の方針にそぐわない人に辞めてもらう仕組みである「退出」のマネジメントも重要です。終身雇用制度が根付いている日本企業には馴染みがない考え方かもしれませんが、組織のエンゲージメントを高めて成果を出していくためには大切な取り組みになります。
制度・事業・情緒のオンボーディング施策をしっかり行うと、価値観が合った社員による一体感のある組織が作られ、会社と社員が対等な関係になり、お互いが貢献しあう「エンゲージメント」が高まる状態に入っていくのです。オンボーディングは、エンゲージメントの重要な出発点です。
※1 パーソル総合研究所「企業の新規事業開発に関する調査結果」
https://rc.persol-group.co.jp/news/202205231000.html
※2 マイナビ「新入社員のエンゲージメントと職場環境に関する調査」
https://www.mynavi.jp/news/2021/09/post_32002.html