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先行研究からわかるオンボーディングの効果と、研究の限界
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日本では近ごろ注目が集まるようになったオンボーディング。この「社員が入社してから早期に会社になじみ活躍できる状態にする」取り組みが一足先に始まっていた海外では、研究も古くから取り組まれており、1970年代から始まっていたようです。
今回は、先行研究によって明らかになっているオンボーディングの効果と、逆にまだ証明されていないことについてご紹介します。理論を知っておくと、オンボーディング施策を考えるときや見直すときの指針として役立つと思います。
オンボーディングの研究は、40年以上前から始まっていた

オンボーディングに関する研究は1970年代から始まっており、新入社員の仕事満足度や会社へのコミットメントが上がったり、仕事でのストレスが抑えられたりすることで、早期退職を抑える効果があることが実証されています。
なんと、海外では40年以上も前から研究が始まっていたんですね。欧米企業は日本とは異なり人材流動性が高く、数年ごとに転職を繰り返す人が少なくありません。会社にとっては、オンボーディングをしないと早期退職者が増えてしまい、組織づくりに支障が出てしまうことがその背景にあるのかもしれません。
日本では、オンボーディングに似た内容として「組織社会化」と呼ばれる概念があります。組織社会化も日本国内で研究されノウハウ化されており、たとえば新入社員オリエンテーションやメンター制度、OJTといったものは有名な施策になっています。
重要なのは、会社が目指す姿とオンボーディング施策の整合性

オンボーディング研究の先駆けとなったのが、アメリカのVan Maanen & Schein(1979)による研究です。心理学者のSchein氏は、和訳もされている書籍「キャリア・アンカー」の著者として名が知られています。
彼らは、オンボーディングのプロセスを組織社会化戦術(Socialization Tactic)と呼び、その特徴として、以下の6つの次元を挙げました。それぞれの次元において異なる2つの軸が示されており、前者は組織の制度に従う性質、後者は個を尊重する性質があるとしています。
①集団 ー 個人:前者はすべての新入社員に同じ育成施策を行い、後者はOJTなどで個別に育成する
②公式 ー 非公式:前者は新入社員を他の社員とは別の場で育成し、後者は既存のチームに入って育成する
③規則的 ー 不規則的:前者は新入社員がたどるステップを会社が明確に示し、後者はそのステップが曖昧であったり順序が決まっていなかったりする
④固定的 ー 変動的:前者はオンボーディングが終わるタイミングが一律で決まっており、後者は新入社員本人の習熟度によってオーボンディングを終えるタイミングを決める
⑤接続 ー 分離:前者は社内の先輩が新入社員を直接指導し、後者は指導する先輩を明確に決めない
⑥個の抑圧 ー 個の尊重:前者は新入社員を会社の価値観に同化させることを目指し、後者は新入社員の特性が組織にどのような良い影響をもたらすかを重視する
この研究は、その後に続く数々の研究の土台となりました。7年後に行われた研究であるJones(1986)は、Van Maanen & Schein(1979)による6つの視点を取り入れて実証実験を行ったものです。その結果から、会社の組織社会化を
・制度化された組織社会化戦術
・個別化された組織社会化戦術
の2つに再整理しました。
制度化された組織社会化戦術を大切にする会社は、順序立てられたオンボーディング施策を準備し、一斉オリエンテーションを行うとされています。
一方、個別化された組織社会化戦術を重視する会社では、新入社員は入社後すぐに職務に就き、現場のOJTで会社の規範や価値観などを理解していきます。この場合、新入社員は、自ら情報を探し、人間関係を築いていくことが必要になります。
この研究から、最適なオンボーディング施策とは、その会社が制度化あるいは個別化のどちらの「組織社会化」を目指すかによって異なることがわかります。大切なのは、会社が目指したい組織像が明確になっており、その組織像とオンボーディング施策の考え方がすり合っていることです。
メンター制度は有効なオンボーディング施策

今や日本でも約50%の企業が導入している(※1)メンター(新入社員をサポートする役割を担う先輩社員)についても、研究結果からその効果が明らかになっています。
Ostroff & Kozlowski(1993)は、メンターが付いた新入社員は、付かなかった新入社員よりも社内についてより詳しくなることを示し、Chatman(1991)は、新入社員がメンターと時間をともに過ごし、社内イベントに参加すると自社の価値観を吸収することを明らかにしました。
Enscher & Murphy(1997)は、メンターの存在によって、オンボーディングが早く進むことを調査によって示しました。事務用品の在りかなどの些細なことや、社内政治的なことも含めた風土について新入社員が気楽に質問できることがその理由です。
これらの研究結果を見ると、メンター制度は、Noftyが示すオンボーディングの3つの観点(制度・事業・情緒)のいずれにもよい影響を与えると考えられます。中でも、自社の価値観や社風を新入社員に理解してもらう情緒のオンボーディングにはとても有効でしょう。
まだ研究で明らかになっていないオンボーディングの側面もある

オンボーディングの研究は今もなお発展途上で、まだ明らかになっていない点も多くあります。近年起きている、会社と社員の関係性の変化やリモートワークの定着、あるいは組織メンバーの多様化によって、今後明らかにすべき点が増えたともいえるでしょう。
たとえば、制度化もしくは個別化の組織社会化が、それぞれどのような状況下でより重要になるかは理論としてはまだ整理されていません。
そして、リモートワークを取り入れている組織でのオンボーディングは多くの会社が手探りの中で行っているのではないでしょうか。リモートワークで働く場合、組織へのコミットメントが弱くなることまではKiesler,Siegel & McGuire(1984)や Ren,Kraut & Kiesler(2007)の先行研究でわかっていますが、どう乗り越えればいいのかの方法論はまだ明らかになっていません。
Wesson & Gogus(2005)も、「対面式」のオンボーディングを行うことで、新入社員は自分の役割や企業文化を理解すると実証していますが、ここに理論の限界があるのかもしれません。私たちは理論を超えて、リモートワークが進んでいるという現場の状況に応じたオンボーディング施策を考え、実践していく必要があるでしょう。
また、組織メンバーの多様化も、これからどんどん進むでしょう。ジェンダーや国籍など属性の多様化だけでなく働き方も多様になり、管理者がいないコミュニティ型の組織も将来的には増えていくかもしれません。こうした組織におけるオンボーディングは、ビジネスの現場での試行錯誤が先に起こり、後追いで研究が進むと思われます。
ビジネスパーソンである私たちは、先行研究で証明されている理論は知っておきつつ、自社が目指す組織の姿をふまえて、最適な考え方を取り入れていくのが望ましいでしょう。
※この記事でご紹介した論文
Van Maanen, J., & Schein, E. H. (1979). Toward a theory of organizational socialization. Research in Organizational Behavior
Jones, G. R. (1986). Socialization tactics, self-efficacy, and newcomers' adjustments to organizations. Academy of Management Journal
Ostroff, C., & Kozlowski, S. W. J. (1993). The role of mentoring in the information gathering processes of newcomers during early organizational socialization. Journal of Vocational Behavior
Chatman, J. A. (1991). Matching people and organizations: Selection and socialization in public accounting firms. Administrative Science Quarterly
Enscher, E. A., Murphy, S. E., (1997). Effects of race, gender, perceived similarity, and contact on mentor relationships. Journal of Vocational Behavior
Kiesler, S., Siegel, J., & McGuire, T. W. (1984). Social psychological aspects of computer-mediated communication. American psychologist
Ren, Y., Kraut, R., & Kiesler, S. (2007). Applying common identity and bond theory to design of online communities. Organization studies
Wesson, M. J., & Gogus, C. I. (2005). Shaking hands with a computer: An examination of two methods of organizational newcomer orientation. Journal of Applied Psychology
※1 HR総研:人材育成「新入社員研修」に関するアンケート調査 結果報告(2020年)
https://hr-souken.jp/research/2550/