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新入社員に渡す「ウェルカムキット」とは? その意味と効果を考える
- HRオンボーディングベンチャー人事ウェルカムキットオンボーディングスタートアップ


新入社員へのオンボーディング施策の一環として、自社のロゴが入った文房具やマグカップなどを「ウェルカムキット」として渡す企業があります。
その目的は、入社初日の不安を和らげたり、社内のコミュニケーションを円滑にしたりすることとされていますが、具体的に、どのような意味合いや効果があるのでしょうか。
コラムの最終回となる今回は、Noftyのサービスでもあるウェルカムキットについて深く迫ります。
不安いっぱいの新入社員に「この会社から受け入れてもらえた」と感じてもらうために

ウェルカムキットとは、新たに入社した社員に、会社から渡す物品のセットのことです。学校に入学したときや、有名人のファンクラブなどに入ったときにもらう記念品のようなものも、ウェルカムキットの一種にあたります。
新しい会社に入るときは、誰しもが不安を抱えているものです。
「どのような人と一緒に仕事をするのだろう」
「会社に馴染めるだろうか」
「仕事で成果を発揮できるだろうか」
といった気持ちをもって入社初日を迎えます。その際にウェルカムキットをもらうと、率直に嬉しい、もしくは安心した気持ちになるのではないでしょうか。
それは、会社や同僚がウェルカムキットを「自分のために」用意してくれたという、歓迎の気持ちや好意を感じるからです。新入社員は、「自分はこの会社に受け入れられている」というメッセージを、ウェルカムキットから感じ取るのです。

また、ウェルカムキットは、まだ仕事で貢献していない会社から、先に贈り物をされたことになります。新入社員は、ウェルカムキットを用意してくれた会社のためにも、仕事をがんばって貢献しようという気持ちになるでしょう。
人間は、先に恩恵を受けると、自分もこの恩を返さないといけないと思うものなのです。これは、アメリカの心理学者ロバート・B・チャルディーニの名著「影響力の武器」で述べている「返報性の原理」という、人間がもつ特性とされています。
このように、ウェルカムキットは、新入社員に安心感をもたらし、仕事への前向きな気持ちを醸成してくれる効果があります。不安や緊張を和らげ、モチベーションが湧くという意味で、Noftyが考えるオンボーディングの3つの観点(制度・事業・情緒)のうち、情緒のオンボーディングの第一歩として、とても有効です。
従業員エンゲージメントが高まるウェルカムキットを用意しよう

ウェルカムキットは、文房具やマグカップなど、普段の仕事で使うものに会社のロゴを入れることが多くあります。
このような物品にすることで、仕事中、会社のロゴが頻繁に目に留まり、何度も見ているうちに「自分はこの会社の一員なのだ」という感情が自然と芽生えるでしょう。ウェルカムキットには、こうして会社へのエンゲージメントが高まっていく効果も期待できます。また、同僚と同じものを持っているという連帯感も生まれるでしょう。
ウェルカムキットには、入社直後の不安を和らげるだけなく、仕事で使ってもらうことで得られる、従業員エンゲージメント向上という効果もあるのです。新入社員に使ってもらうために、どういう物をウェルカムキットとして選ぶかも、重要なポイントといえるでしょう。
ウェルカムキットがもつ「贈与」の力とは

ウェルカムキットは新入社員へのプレゼント、つまり「贈与」です。
贈与には、金銭的や物質的な価値だけでなく、大きな感情的価値があるとされています(※1)。ウェルカムキットでいえば「新入社員の安心感」といった、必ずしもお金では買えない感情的価値があります。
先行研究によると、贈与には、与える義務(提供の義務)、それを受ける義務(受容の義務)、お返しの義務(返礼の義務)の3つの義務があるとされています(※1)。「義務」といっても、もちろん法律で決まっているわけではありません。人間が心理的に「義務」だと感じる点に、贈与がもっている力があるのです。
他の贈与の例には、結婚祝いや出産祝い、年賀状、お中元やお歳暮といったものがあります。こうしたものは、贈る人は「贈るべきだ」という半ば義務感のような気持ちでプレゼントをします。これは、贈与を与える義務(提供の義務)の気持ちがはたらいているのです。
そして、贈与を受け取る相手は、よほどのことがない限り、受け取りを拒否することはありません。これが、贈与を受ける義務(受容の義務)です。かつ、「何らかのお返し」をすることを考えます。法律で決まっている義務ではないにもかかわらず、お返しをしなければ、いつまでも心の中にわだかまりが残るでしょう。
ウェルカムキットをもらった社員が「この会社でがんばっていこう」と思うのは、お返しの義務(返礼の義務)を仕事という形で果たさなければならない、といった気持ちが作用しているからかもしれません。

贈与は、生活に必要な物をお金で買う「交換」とは違います。交換は、商品やサービスとお金を単純に交換することを指し、その価値はその場だけのものです。そして、信頼感といった感情は、交換からは生まれません。
一方で、贈与の感情的価値は、長い時間にわたって続きます。たとえば結婚祝いであれば、もらった品物を使うたびに「これは、結婚したときに○○さんからもらったものだな。お祝いしてくれて嬉しかったなあ」などと、当時の感情を思い出すでしょう。
雇用契約に書かれているような「仕事」と「給与」は、労働力と金銭を交換する意味合いがあるかもしれません。ですが、それだけでは社員は仕事のやりがいを見出せず、従業員エンゲージメントも高まらないのは、これまでのコラムで見てきた通りです。
贈与の意味合いがあり、人との関係性を深める力をもつウェルカムキットを使うことも、社員が会社に貢献したいと思う気持ちを生み出し、従業員エンゲージメントを高める方法のひとつではないでしょうか。
ウェルカムキットだけを用意しても、意味がない

ウェルカムキットは、それだけを導入してもあまり効果を発揮しません。新入社員に渡したものの、使ってもらえなければ意味がなくなってしまいます。
社員の不安を和らげ、会社への信頼感や貢献したい気持ちをもってもらうためには、オンボーディング全体におけるウェルカムキットの位置付けや、従業員エンゲージメントの向上との整合性を、人事担当者がしっかり考えておくことが重要です。
さらに広い視点で考えると、会社のビジョンや目指す組織像を定めたり、他者を受け入れる組織風土づくりを推進したりすることも欠かせません。そもそも、新しい人を受け入れる風土がなければ、ウェルカムキットをはじめとするオンボーディング施策は十分な効果を発揮しないからです。

Noftyのサービスを利用して、ウェルカムキットを新入社員へ配布している株式会社カミナシ様では、社員数が増え続ける中でも「なんでもオープンにする文化」を維持していきたいと考え、副業人材も含めた新入社員へのオンボーディングに力を入れ始めました。
その一環として、新入社員にはウェルカムキットを配布。さらには、入社して500日・1000日が経過した社員にもノベルティを渡しているのです。入社後のオンボーディングのみならず、数年先までを見据えて、従業員エンゲージメント向上にも取り組んでいます。
ウェルカムキットは「入社してよかった」と新入社員に思ってもらうため、そして500日・1000日記念のノベルティは、長く在籍してくれている社員への感謝の気持ちを伝えるためとのこと。それぞれの目的が明確になっているのです。
労働力人口が減り続ける中、企業が成長するためは、入社してくれた社員がモチベーションを高め、能力を発揮し、活躍してもらうことが欠かせません。会社と社員の双方が幸せになるよう、従業員エンゲージメントを高めることは必須であるといえるでしょう。
その一環として、ウェルカムキット配布を含めたオンボーディングも、より多くの企業に取り組んでいただきたいと、Noftyは考えています。
※1 参考:「贈与論」(マルセル・モース 著)、「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ」(桜井英治 著)、「世界は贈与でできている」(近内悠太 著)